肩こりは、頚椎の病気、肩関節の病気、頭痛、眼精疲労、筋肉疲労、体型、姿勢の問題、運動不足、ストレス、女性のホルモンバランス障害などにより生じます。首から肩にかけての筋肉は持続性の緊張を強いられ硬くなり、血流が滞(とどこお)りがちになったり炎症を起こしたりして疲労物質や痛みを引き起こす発痛物質(はつつうぶっしつ)が局所にたまります。これに対し、神経ブロックは痛みを抑えるだけでなく交感神経の緊張を鎮め局所の血流を増やし、疲労物質や発痛物質を洗い流す、ホルモンの分泌バランスを調整する、炎症を抑えるなどの働きにより、症状を改善していきます。
ペインクリニックの診断・治療の手法として中心となるのが神経ブロックであるため、神経ブロックが有効に活用できる次のような痛みとは関係のない病気も治療の対象となります。
手足のしびれ
神経が障害を受けた場合、痛みの他にしびれを生じることがあります。首・肘・手首や腰・膝・足首で神経が圧迫され炎症を起こして生じた急性期のしびれは、神経ブロックにより炎症が治まるにしたがってその多くは消えていきます。
また長期間続いた神経の圧迫やその他の損傷、脊椎手術後、脳出血・脳梗塞後の慢性のしびれは、神経自体に後戻りできない障害が起こっていることが多く治療は困難ですが、神経ブロックやお薬によって軽くなっていく場合もあります。
顔面神経まひ・突発性難聴
ある日突然片方のまぶたが閉じない・頬や口元がゆがんで動かない・口に含んだ飲食物がこぼれてしまう顔面神経まひや、ある日突然片方の耳が聞こえなくなり耳鳴りを伴うことが多い突発性難聴は、耳鼻科でステロイドなどの点滴治療が中心になりますが、これと併用して神経ブロックが有効な場合があります。
治療法として、首にある交感神経の親玉的存在である星状神経節(せいじょうしんけいせつ)に注射をします。
これにより頭や顔の血流が増えるため、障害を受けた顔面神経やマヒして動きにくくなった顔面の筋肉、聴神経、内耳に多量の酸素や栄養分が送られることにより、これら機能の回復を助けます。したがって発症後早期の治療開始が効果的です。
片側の顔面けいれん・両側の眼瞼けいれん・痙性斜頚
片側の目のまわり、頬、口元がピクピクとけいれんし続ける顔面けいれんは頭の中で一部の血管が顔面神経を圧迫することにより、両側の目のまわりがピクピクとけいれんし続ける眼瞼けいれんは顔面神経に指令を与える脳の一部の機能障害により、ともに顔面神経の運動機能が興奮してけいれんを生じます。
頭が左右どちらか一方に傾いたり回ったりしてしまう痙性斜頚は、何らかの原因により脳の姿勢を調整するプログラムに支障を生じ、首の周りの筋肉の一部におこる異常な持続性の緊張が原因となっています。
けいれんを起こしている部位の皮下組織や筋肉に、ボツリヌストキシン(商品名ボトックス)を注射し、神経から筋肉への興奮伝達物質を出さなくすることにより、局所的な筋肉のけいれんや緊張を止めて治療します。
腋窩多汗症・手掌多汗症
わきの下や手のひらに多量の汗をかく多汗症では、自律神経のなかの交感神経が興奮を起こしています。
当院では、クリニック内で調剤化した塩化アルミニウム製剤を塗る他に、腋窩多汗症ではボツリヌストキシンを注射することにより、神経から汗腺への伝達物質を出さなくして発汗をおさえる治療も行っています。
※ボツリヌストキシン注射療法のなかで、重度の腋窩多汗症に関しても平成24年11月より保険適用となりました。
花粉症
花粉症(季節性アレルギー性鼻炎)に対して星状神経節ブロックが有効な場合があります。これは星状神経節ブロックの自律神経のバランスを調整する作用や免疫機能の異常を抑える作用などによるものではないかといわれています。
花粉症の飲み薬と同様、花粉が飛散する少し前の1月半ば〜2月中にはじめると効果的ですが、シーズン途中からでも症状を軽くできる場合もあります。
糖尿病性動脈硬化症、バージャー病、閉塞性動脈硬化症、レイノー病やその他の膠原病による手足の血流障害
これらの病気で生じる手足の血流障害は、病状の進行とともに冷感、しびれ、間欠性跛行(かんけつせいはこう)から安静時の痛みも伴うようになり、さらには皮膚の一部にくぼみができたり(潰瘍)、腐って黒くミイラ化してしまう(壊疽)こともあります。
星状神経節ブロック、硬膜外ブロックや腰部交感神経節ブロックなどによる交感神経系のブロックは、神経支配がおよぶ一部の血管を拡げることにより、病変部周囲の血流を強制的に増加させます。
この血行改善作用により、痛みや冷感はうすらぎ、虚血状態におちいった組織の修復も期待できます。